父は偉大

  水曜の夜。GW後半は一人で自由なため、父ちゃんに一緒に釣りに行こうと切り出した。普段、餌釣りの父親とは、近くに住んでるのに一緒に行く機会がほとんどない。「日和佐に行こう」。ふーん、としかその時は思わなかった。

 

  で、金曜日の午前4時に起きて、サンジョイでオキアミを買っていく。この時点でもまだ何が起きるのかわかってなかった。一応ルアーの道具も持ってい出かけていた。俺としては、ルアーとか餌木もやってみようと思ってた。

 

  現地到着。ずいぶん高いところから車で下ってきた。こりゃまたすごいな。磯って感じ。この時もまだ事の重大さがわかってない。荷物を担いで岩場を登っていく。こりゃ重い。バッカンにオキアミのパック2袋。これを父ちゃんと一つずつだが、これが重い。さらに他の道具も当然ある。これだから餌釣りは大変だ。よいしょと、よいしょと・・・。

 

  ふと気がつくと・・・・、そこはだった。下を見ると、普通に崖。落ちると死ぬ高さ。足場は岩場のわずかな隙間。一瞬、本気で怖くなり足が動かなくなった。しかし、父ちゃんはひょこひょこ進んでいく。既に定年を過ぎ、体力も落ちている・・・はずなのに、俺よりもたくさんの荷物を担いでいるのに、完全に置いていかれる。そういえば、昔、軟式テニスやらなんやらやってたらしいな。俺は運動神経はいい方だと思ってたが、もしかして父ちゃんは俺より遙かに上を行っているのでは!?

 

  はー、何とかクリア。餌木の二人組が見えるな。さてと・・・・

 

  もっとすごい

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  写真ではわかりにくいが、右下の崖は急でその先が見えない。が、そこを下っていかないと先に進めない。て言うか、進めんよ。こんな崖。どこで釣る気なの、父ちゃん?え、ちょ、ちょっと、行くのかよ、そこを!?信じられん。こんな崖を行くなんて。これは船代払って渡してもらった方がましやぞ。重いバッカンは崖側の手に持つと崖に当たるし、体の重心が崖下側に寄るので崖と反対の手に持つしかない。しかし、当然重いバッカンは崖の下に引きずり下ろそうとするので、崖に身をぴったり付け、反対の手で崖を持ちつつ進む。しかし!!父ちゃんは2本足でどんどん進んでいく!!。

 

今度は目の前に谷のように切り立った岩肌とその谷の部分にどんどん打ち付けてくる波。はー、いつになったら釣りになるんだ?まず、父ちゃんが重い荷物を置いて先に渡る。崖の上からロープが下ろされている。ほぼ垂直の崖の上で、そのロープを使って、また信じられない身のこなしでバッカンを運ぶ父ちゃん。俺は身軽になった状態。波が引いたタイミングを見計らい、やっと谷を渡る。

 

  やっと、釣り場到着・・・。既に体力切れ。しかし、すごいなー。これが本当の磯か。ものすごい切り立った岩場。波も迫力あるし。嵐になったら死ぬな。実際、波にさらわれて何人か死んでるらしいし。しかし、父ちゃんはライフジャケットは着てない。岩場に入る前、なんで着ないのか聞いたら「落ちんかったらええんじゃ。着たらかさばるし」とのこと。そりゃそうだけど・・・。鳴門の岩場でいい気になってたな、俺。

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  釣りの準備開始。よくわからない仕掛けが父ちゃんの手によって進められていく。どうやらフカセ釣りなるものらしい。道糸とハリスは直結だ。オモリもかなり小さい。撒餌もバッカンの中で作られる。まずは3ヒロくらいのタナを取って、釣り開始。

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  父ちゃんの姿を見ながら適当に釣る俺。流れがすごくて、ウキがどんどん流されて釣りにくい。餌のオキアミは柔らかい。針が全部隠れるように刺すんだけど、ちょっと竿をあおったりするとすぐに取れてしまう。仕掛け自体はむちゃくちゃ軽いし、竿は長いで、ちょっと風が吹くと針を手にするのも一苦労。撒餌なんか全然狙ったところ落ちないし。

 

  四苦八苦しながら、磯の波と風にもまれて釣る。磯釣り。日本の文化だな、これは。・・・?む?ウキが変な動きをしたぞ。それ。お!?なんかかかってるぞ!!父ちゃん、何か来た!!

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  人生、初グレ!!

 

  まあ、手の平サイズなんだけど。もう、これだけで今日幸せですわ。しかし、ビギナーズラックであることは百も承知。このあとは反応無い。しばらくすると父ちゃんに強烈な引き!!これはでかい!!急いでタモの準備をして振り返ると・・・・あれ?あっさり切られたらしい・・・。あー、もったいねー、何が釣れてるのか見たかった。タナは5メートル越えの竿2本分は取ってるらしい。まじで!?こんな足下で水深10m越えてるのか?難しいなー。ウキも浮かず沈まずみたいな感じで目が離せない。しかもかなり遠くまで流れた上で見極めないといけないし。

 

  時は過ぎていくが、反応無い。視界にある釣り人も釣れている風景はない。俺は相変わらず簡単に取れる餌と思い通りにならない仕掛けに翻弄されて、釣りしてる時間の方が少ない状況。いらいらするが、この磯というシチュエーションに身を置いて、新しい文化を肌で感じている。サラシとかできてるのでもしかしてヒラスズキ釣れるのかとも思ったが、初めての釣りに集中したい気分でルアーには手をつけなかった。

 

  結局、父ちゃんも俺もこの後は小型の鯖を1匹ずつかけただけ。気がつくと上げ潮にさしかかってる。ここまで来た途中の谷が渡れなくかもしれないので、戻ることに。撒餌が減った分荷物が軽くなり、来るよりは楽に谷を渡る。とは言え、楽ではなかったが。

 

  最後、1時間だけやや奥まった所で釣り再開。波や流れが少なく、さっきはなかなか浮き止めまで仕掛けが沈まなかったのが、ここではするすると仕掛けが沈んでいく。

 

  お、ウキがなんか沈んだままだ。アワセを入れてみる。お!!なんかかかったぞ!!赤い!!

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  ナイスサイズのガガネだ。口の中を見るとオキアミがいっぱい。撒餌のアミを食いまくってたみたい。食べたらおいしそうだけど、1匹だけ持って帰ってもなー、と言うことで木っ端グレに続いて、リリース。

 

  さらにしばらくして・・・・、ウキが沈み込んで浮いてこない。合わせてみる。おお、なんかきてるよ・・、、うおーっ!!いきなり強烈にひきだした!!とうちゃん、なんかすごいの来たーっ!! レバーブレーキのリールで突っ込みを交わして・・・。

 

父「糸出すなよ!!根に潜られるぞ。」

 

  え?そうなの?ブレーキの意味が無いのでは・・・・。竿のしなりと膝や腕のこなしでなんとか持ちこたえる。「チヌだろ、きっと」。ほんと?人生初グレに続いて、初チヌか!?水の中でぎらっと魚体が光る。・・・チヌか?

 

父「なんじゃ、ボラじゃ。しんだ。」

 

  ボラ!!

 

  ふざけんなよ!!てめーっ!!!こんな底で食ってくるんじゃねーよ!!こんなところまで俺を失望させるのか!!

 

  途端にやる気が無くなり、粘りをやめたら、針が外れてオートリリース。

 

 

  程なくして、初の磯釣りは終わった。結局、グレ1匹、ガガネ1匹、鯖1匹で終わった。一番楽しめた引きはボラの姿を見て帳消し。父ちゃんは鯖だけ。難しいぜ、フカセ釣り。しかし、たくさんの人がハマるのがわかる。自然条件、仕掛けが複雑に絡み合い、狙い通りの結果を出すのは至難の業だけど、それで引き出せた1匹の充実感はすばらしい物があるだろう。かといって、また行こうという気にはならんけど、また機会があれば父ちゃんと来てみたい。

 

  その晩、勢いを買って吉野川でルアー投げてみたが、何事もなく終わる・・・。